創業明治13年。春日部生まれの天然素材「麦わら真田」
「創業したのは、まだ日本に帽子をかぶる文化が根付いていなかった時代。ちょうど西洋の文化が日本に入ってきた頃だったと聞いています」と語る田中優さん。2016年から6代目として田中帽子店を任されている若き経営者です。
「春日部市は利根川の流域に広がる肥沃な土地で、昔から麦や米の生産地でした。農家の人たちが、農閑期に麦の茎の部分で「麦わら真田」をつくって、ヨーロッパをはじめとする海外へ麦わら帽子の材料として輸出するところから、春日部市の麦わらの歴史がスタート。要するに副業から生まれた産業だったんです」と田中さん。7本の麦の茎を手で編んで紐状にした「麦わら真田」は「真田紐」とも呼ばれました。真田紐の「真田」は、関ヶ原の戦いで敗れて謹慎していた真田昌幸・信繁父子が生み出し、生計を立てたことから名付いたという説もあるそうです。
「真田紐の輸出が好調だった中『海外の文化をいち早く取り入れよう』という思いから製帽用のミシンが輸入され、主に農作業用として国内で麦わら帽子が生産されるようになった頃、田中帽子店でも本格的な帽子づくりがスタート。春日部には日光街道が通っていたので、暑い夏に江戸に向かう時の必需品としても買われていたそうです」。その後、日本全国に麦わら帽子関連の会社が数多く生まれましたが、現在残っているのは数社程度。今では、春日部市の「伝統工芸品」にも認定されています。